●Vol:2

 次の日、パイは近くに滝があるからそこへ行こうと誘ってくれた。滝か。自然な感じでなかなかいい。バンガローから山道をクルマで十分ぐらい走らせると、滝と子供が描かれている古びた看板が出てきて、その側道に入り、少しすると駐車場らしき広場に出た。そこには何台かクルマが停められていた。
  駐車場からは徒歩の道のりだ。小さな丸太かなんかで補強された階段と砂利道をしばらく歩くと川が現れた。下のほうで子供連れの家族が楽しそうに泳いでいた。オレたちは道を更に登った。道は登るにつれだんだんと険しくなり、砂利道というより、山道になって行った。
  「あー、キツい。これホントに道なの?ちょっと休もうよ。」
  と、パイに話しかけたが、彼女は聞いているのか聞いていないのか、黙って山道を登っていった。オレは仕方なく彼女について行った。当初は気軽に考えていた滝見物。クルマで行ってすぐに見れるものだと思っていたら大間違い。かれこれ三十分以上山道を歩いているのだが、着く気配はない。ホントに滝はあるのか?オレは不安になった。
  「ねえ、道間違えたんじゃない?大丈夫?やっぱ戻ったほうがいいんじゃん?なんか薄暗くて気味悪いしさ。足疲れるしさ。」
  などといろいろ言ったが、パイは黙ってただひたすら山を登った。街を二人で歩いていると、いつも彼女は「疲れた」とか、「歩けない」とか言って、すぐに休もうとするのだが、この日に限ってそういうことを一言も口にせず、ただ黙々と進んでいる。しかも、速い。オレの私見だが、タイ人は歩くのが嫌いだ。すぐにタクシーに乗りたがる。歩いたとしてもノロい。パイもご多聞に漏れず歩き不精だ。なのになんなんだ、この速さは。こっちが着いていくのがやっとじゃないか。しかも息切れ一つしていない。あー、チクショウ、こんなにキツいの知っていたんなら行くの却下してたよな、普通。だけど、入り口にあった家族の絵のイメージとはエライ違いだな。こんな険しい道子供が登れるか。あー、はやく着かないかな。唯一の楽しみはパイのケツを下からのアングルで見れるということだけか。下から見上げてみるパイのケツはまた格別な趣がある。
  パイが立ち止まりこちらを振り向いた。山に入ってから初めてだった。山に入ってからパイはオレを一度も見ず、スタスタと登って行ったが、一度だけ立ち止まったことがあった。それはオレが枝を踏みつけたときその枝が折れ、パチンと音を立てたとき、鳥の群れが一斉に飛び立ち、森がざわついたときだった。彼女は立ち止まり、飛び立った鳥の中の一羽を目で追っていた。鳥が見えなくなると彼女は再び歩き出した。
  「ケン、ハリー・アッ。」
  と、パイはオレを急き立てた。
  オレは彼女のところへ必死に登って行き、彼女のもとにたどり着くと、彼女は何も言わず、前を指差した。
  目の前には滝があった。
  それは特に大きなものではなかった。十メートルから十五メートルぐらいだろう。荘厳というわけでもない。なんてことはない滝だ。しかし、なぜだかオレを惹きつけて止まなかった。
  滝の周りには何人か人がいて、滝壺で泳いでいるのもいれば、岩の上で寝そべって太陽光線を浴びているものたちもいた。オレたちは空いている岩の上に陣取った。パイは服を脱ぎ、パンツとブラジャーだけになり、滝壺に飛び込んだ。オレもそれに続き、すぐにパンツ一丁になり、水に飛び込んだ。
  冷てぇー。
  思ったより水は冷たかった。深さはどれくらいあるんだろう?足はぜんぜん着かなかった。滝壺にはかなり大きな岩がいくつかあり、それが微妙にいろいろな流れを作り出したり、腰ぐらいの高さの小さな水溜りをいくつか作っていた。タイ人の少年四、五人が近くの岩から飛び込んで、水しぶきを上げながらはしゃいでいる。その水しぶきが岩の上で寝そべっている白人と黒人の若い女にかかり二人とも脊椎反応を起こし、体を縮めた。黒人の女は下着姿で、白人の女はブラジャーもはずし、パンツ一丁で腕を上げて寝そべっていた。両脇には金色の毛がたくましく生えていた。ドイツ人か?と、オレは一瞬思った。いずれにしても二人ともいい女だった。女の近くにはオセアニア地区出身風の白人の男たちが何人かいた。いや、南アかもしれない。それはどうでもいい。旅人風だ。カオサンのゲストハウスで知り合ったに違いない。
  バシャ!
  顔にいきなり水をかけられた。不意打ちを食らったオレを見ながらパイが大声で笑っていた。オレも負けじとパイに水をかけた。オレたちは子供のようにはしゃぎ、そして水の中で抱き合ってキスをした。川の水の味がした。
  オレたちがしばらく水の中で遊んでいると、向こうにいた三人家族の父親が立ち上がり、水の中に飛び込んだ。四十歳ぐらいのその男は短髪のクルーカットで、口元に髭を生やし、筋肉質の締まった体をしていた。アメリカの軍人だ。曹長クラスか。妻は多少体重過多気味の太平洋諸島出身風の女で、娘もまた肉付きが良かった。
  曹長は滝壺を泳ぎ向こう岸の崖にたどり着いた。途中オレを少し見やり、頭を傾け、こちらに来いと言ったような動作を示した。オレはどういう意味だかわからなかったので、とりあえず彼の誘いには乗らなかった。曹長は崖の岩に登り始めた。水面の高さくらいに平たいところがあるのでそこに立つことが出来るがそのもう一段上に行くには上にある木をつかみ、体を引き上げなければいけない。岩はぬれていて滑りやすかった。曹長は足首から固定されているサンダルを履いていたので、裸足よりはましだが、それでもかなりの注意が必要だ。曹長は足場を確かめながら右足を一歩踏み出し、体重を移動させた。
  危ない!
  その瞬間足がすべり、曹長は水の中にずり落ちた。怪我はしてないだろうか?なんか肌を思いっきりすりむいていそうだった。しかし、曹長はすぐに水から上がり、また岩に登ろうとしていた。曹長の胴体は赤くなっていたが、出血はしていないようだった。彼は同じように木をつかみ、岩に登った。岩の上は水面から一メートルぐらいで、そこからさらに細い道があり、上に登ることが出来る。三メートルぐらいのところに小さな台みたいなところがあり、曹長はそこをめがけて登っているようだった。
  曹長はそこに達したが、止まることをせず、足場が悪い崖をさらに上に上っていった。まじかよ、こいつ滑って落ちて死ぬんじゃないか?と、オレは不安になった。曹長はそんなオレの不安をよそに少しぐらつきながら登っていった。
  水面から七、八メートルまで登ったところで曹長は止まった。少し平たいところがあり、そこに立ち上がった。曹長の顔から緊張がとれ、家族の方に向けて手を振り、家族もそれに答えた。それから、一瞬オレのほうを見て笑みを浮かべ、水に足から飛び込んだ。
  大きな音と水しぶきとともに曹長の体は水に沈んだ。二、三秒の間があった。そして曹長が自ら顔を出した。歓声が上がった。曹長は軽快にこちらの岸に泳ぎ、家族の所に戻った。
  オレは曹長が飛び込んだ高台をしばらく眺めていた。あの高さから普通飛び込むか?しかも奥さんも子供も止めようともしなかったし。何考えてんだ。などと思いながらボーとしていると、パイがオレの腕を引っ張り、岸のほうへ泳いだ。

 「来て。こっちの方にもっと小さい滝があるわ。」
  と、言ってオレを茂みのほうへ連れて行った。二、三分歩くとそこには三メートルぐらいの小さな滝があった。メインの滝からは近いにもかかわらずそこはあまり知られていないらしく誰も人がいなかった。パイは滝の近くに行くと、下着を脱ぎだし、素っ裸になって滝の水を浴び始めた。いつ見てもいいスタイルだ。水の冷たさで硬くなった乳首がまたいい。それから、あるのだかないのだかわからないような薄い陰毛もなんとなくタイ人っぽくて好きなのだ。オレもパンツを下ろし、パイのところへ行った。パイはオレに抱きつき、キスをした。オレたちは熱く抱き合いながら思いっきりキスをした。滝の水が程よく体を冷やしてくれて気持ちよかった。するとパイはしゃがみ込み、オレのものをしゃぶりだした。パイのエロにスイッチが入ったようだった。オレはしばらく恍惚の状態でパイの頭が前後するのを見ていた。丸い頭だ。
  下を向いている状態からふと顔を上げて正面を見ると、タイ人の農民風のオヤジが現れ目が合った。オヤジもこの光景を予想していなかったのか、ハッと驚いた表情を見せて一瞬固まった。オレも固まった。パイは一心不乱で行為を続けている。オヤジはばつが悪そうにそそくさと茂みの中に去っていった。オヤジが去るのを確認すると、オレはパイを立たせ、キスをし、後ろを向かせた。あとはどうなったか、もう言うまでもないだろう。想像の通りだ。


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